Research
キラル物性、キラル空間、キラル磁性に関する研究
井上克也
右手と左手の関係に象徴される対掌性の概念は、私たちが人間と自然の関わりを対象化して意識するようになる近代以前から私たちの無意識に宿っていたと言える。この問題が学問的な考察の対象として最初に取り上げられたのは哲学の分野であった。プロイセンの哲学者カントが空間が先か事物が先か、という問題を論じた『空間における方位区別の第一根拠』(1768年)で、「私たち人間は持って生まれた体の形を通してのみ左右非対称という概念を規定できるのだ」と結論づけた。自然科学では、イギリス王立協会のLord Kelvinが1884年のBaltimore Lecturesで、右手と左手のような非対称なかたちの組のことをキラリティ(ギリシャ語の「掌」が語源)と呼び、そのような関係にあるものをキラルと呼ぶと規定している。一方、素粒子の分野で、放射性核種の崩壊に伴う放射線が反転対称性が破れていることから、素粒子も生まれながらにして空間反転対称性が破れていると考えられてきた。20世紀になってイギリス、グラスゴー大学のLD. Barronは、回転と並進の組み合わせもキラルになると指摘し、いわゆるヘリシティをキラルの定義に加えた。この定義によって素粒子のスピンと運動量の関係性(ヘリシティ)と幾何学的キラリティの概念が統合された。
今日キラリティは、素粒子の世界から宇宙構造まで自然界のあらゆるスケールで、幾何構造と運動の概念を包摂する普遍概念として重要な役割を果たしている。しかしながらキラリテイは、文系、理系研究ともにあくまで現象論的に捉えられ、本質を捉える研究はほとんどされてこなかった。本研究ではキラル物性、キラル磁性の研究を糸口にしてキラル空間とキラリティの本質に迫って行きたい。
現在では以下の項目について研究を進めている。
1. キラル磁性体の合成、設計。
2. キラル磁性体のコヒーレントスピンオーダーが示す特異物性、スピンダイナミクス。
3. 非対称磁場空間の検出。
資料
-
レクチャー動画(井上)
MolMag 2021 Invited Talk (2021.08.16)
-
勉強会
第1回 トロイダルモーメント
第2回 遍歴電子、スピン、キラリティの三態
第3回 Penrose tiling
第4回 位相の科学
-
活動履歴
Grants
2022年度 自転車等機関振興事業に関する補助金(代表:西原禎文)(2022-2023)
※バナーをクリックすると外部サイトに飛びます。
基盤研究C「Skyrmionic LEGO- entangled skyrmion networks in chiral magnets and liquid crystals」(代表:Leonov Andrey)(2019-2022)
挑戦的研究(開拓)「電場による分子キラリティの制御」(代表:西原禎文)(2020-2023)
研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム(START)「籠型分子を用いた超高密度不揮発性メモリおよび超低消費電力AIチップの開発」(代表:西原禎文)(2020-2023)
戦略的創造研究推進事業さきがけ(科学技術振興機構)「ペタビット時代を支える革新的分子ストレージング技術の確立」(代表:西原禎文)(2019-2022)
基盤研究B「単分子誘電物性の構造学的解明と新規物質群開拓」(代表:西原禎文)(2019-2021)
研究拠点形成事業(Core-to-Core) A. 先端拠点形成型(日本学術振興会)「スピンキラリティを軸にした先端材料コンソーシアム」(代表:井上克也)(2015-2019)
A-STEP 実証タイプ(科学技術振興機構)「超高密度記録に資する分子誘電メモリデバイスの改良と実証研究」(代表:西原禎文)(2018-2019)
基盤研究B「単分子誘電体の機能開拓と応用」(代表:西原禎文)(2016-2018)
基盤研究S「化学制御Chiralityが拓く新しい磁性」(代表:井上克也)(2013-2017)
基挑戦的萌芽研究「イオンスイッチ分子トランジスタの創出」((代表:西原禎文)(2016-2017)
産業基盤の創生(キヤノン財団)「単分子強誘電素子の開発」(代表:西原禎文)(2016-2017)
挑戦的萌芽研究「強弾性ー強磁性交差相関解明」(代表:井上克也)(2015-2016)
新学術領域「超低速ミュオン顕微鏡」(分担)(2012-2016)
基盤研究B「イオン移動型ポリオキソメタレートを用いた新規機能創出」(代表:西原禎文)(2012-2014)
挑戦的萌芽研究「リボルバー型分子を利用した新規機能創出」(代表:西原禎文)(2011-2012)
基盤研究A「キラル磁性体の合成戦略の確立」(代表:井上克也)(2010-2012)